2024.3.6
入居の準備
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者
増田 高茂(ますだ たかしげ)

老人ホーム入居の際に住民票は移すべき?

入居の準備

施設入居の相談の際によく聞かれるのが「住民票はどうしたらいいですか」という質問です。住民票は住んでいる場所に移すのが原則となりますが、ご家庭の事情により住民票を移すことが難しいケースがよくあります。老人ホーム入居にあたり住民票を施設のある市区町村に移すべきかどうか解説していきます。

老人ホームに入居したら住民票を変更すべき?

施設入居の際に検討することのひとつとして、住民票をどうするかということがあります。一般的には入居した施設の住所に移すのが原則となっていますが、必ずしも強制というわけではありません。それぞれメリットとデメリットがあるため、それらを考慮して検討する必要があります。

住民票が異なる市区町村のサービスは利用できるか

先ほど述べた通り住民票とは本人が住まう場所にあることが原則となりますが、義務ではありません。そのため、住民票を移さずに入居する方も多いのですが、施設の運営スタイルによっては、施設に住民票を移すようお願いされる場合もあります。例は、下記の図で説明します。

老人ホーム_住民票

要支援の方が利用できる介護予防サービスは住民票のある地域の事業者しか利用することができないため、住民票が施設とは異なる市区町村にあると、施設併設の介護予防サービスを利用することができません。また、地域密着型サービスもそのサービスを提供する事業者と同じ市区町村に住民票が無ければ利用できないため、本人の住民票が同じ市区町村ではない場合は住民票を移す必要があります。

地域密着型サービスとは

地域密着型サービスとはその名の通り、地域の方が住み慣れた街で暮らすことを目的としており、入居者は施設と同じ市区町村(※)に住民票があることが求められています。

地域密着型サービスは計9種類あります。これらのサービスを利用する場合には、施設がある住所に住民票がある必要があります。

住民票_地域密着型サービス

上記の通り、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)も介護保険制度上の地域密着型サービスに該当します。異なる市区町村からそのグループホームのある市区町村に住民票を移して利用することについては、自治体により判断は異なりますが、住民票を移してすぐに入居することが認められない場合もあります。詳しくは各行政に確認する必要があります。

※区をまたいで同一市内であれば利用できる自治体もあります。

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住所地特例制度

住所地特例とはそれまで住んでいた市区町村とは異なる地域の施設に入所する場合、その介護保険の利用料をもともと住んでいた自治体に請求できる制度のことです。介護保険では介護費の自己負担分以外の利用料を、国・県・市区町村が一定の割合で負担することになっています。しかし、施設入所のために別の市区町村に移ったことで、その負担が施設のある市区町村となってしまうことが公平ではないため設けられている制度です。

住所地特例を利用するメリットは、自己負担を抑えることができる場合があることです。自治体ごとに保険料は異なるため、それまで住んでいた自治体のほうが介護保険料が低い場合は、自己負担を小さくすることができます。

住所地特例制度の対象者は65歳以上の方、40歳以上65歳未満の医療保険加入者です。要介護認定を受けていなくても、住所地特例の対象となる施設に住民票を移した場合は対象者となります。

住所地特例の対象となる施設は以下の通りです。

  • 住民票_住所地特例

住所地特例制度の手続きをするには「介護保険住所地特例適用・変更・終了届」を役所に提出する必要があります。自治体によっては現住所の市区町村より施設と同一の市区町村の保険料の方が高くなる可能性もあるため、事前に保険料を確認しておくことをお勧めします。

浜松市老人ホーム_静岡

老人ホーム入居時の住民票移転手続き

住民票を移転する際は元々居住地のある住所の役所に行き、まず「転出届」を提出します。その後、移転先の自治体にて「転入届」を提出します。住民票を移すのは一般的な手続きと変わりありません。

しかし要介護認定を受けている方が住民票を移す場合は「受給資格証明書」が必要となります。受給資格証明書は、転出元の市区町村で要支援認定や要介護認定を受けていることを証明するものとなります。受給資格証明書の提出には期限が決まっており、転入届を提出してから14日以内に提出しなければなりません。受給資格証明書を提出すると、住民票を移転した先の自治体でも移転前の自治体で受けた要介護認定を引き継ぐことができます。もし14日以内に提出できなかった場合、新たに転出先の自治体にて介護認定を受ける必要があります。

郵便物について

住民票を移すか移さないか検討する時に、郵便物について気になる方も多いと思います。老人ホームに入居する際、入居される方の郵便物は転送届を郵便局に出せば転送されますが、転送期間は原則1年間となっています。ご家族様が遠方に住まわれている場合は郵便物の確認が大変になってきます。自治体より介護サービスの利用に必要な重要書類なども郵送されるので、ご家族様が遠方にお住いの場合は住所を施設に移すことをお勧めします。施設では郵送された郵便物をご本人に渡すか、重要なものなどは事務所にてお預かりして対応しているところもあります。

住民票を施設のある住所に移すメリット・デメリット

以上のことを踏まえて、施設入居の際に住民票を移すメリットとデメリットを以下にまとめます。

住民票を移すメリット

  • ①現住所の市区町村より施設と同一の市区町村の介護保険料の方が高くなる可能性がある
  • ②要支援の方は介護予防サービスを受けられる
  • ③地域密着型サービスを利用できる
  • ④郵便物が施設に届く

住民票を移すデメリット

  • ①現住所の市区町村より施設と同一の市区町村の介護保険料の方が高くなる可能性がある
  • ②住民票を移す手続きに手間がかかる
  • 老人ホーム入居に伴う住民票移転時の注意点・まとめ

    施設入居に際しては、入居後に家が空き家になってしまうケース、あるいは遠方から家族を連れてくるケースなど、住民票の移動を検討しなければならないケースがあります。注意点は、介護認定で支援となってしまう可能性があるような方はサービス利用ができなくなる可能性があることです。住民票を移すかどうかは施設の相談員やケアマネジャーと相談しながら慎重に話を進めることをお勧めします。

    アクタガワでは静岡県内で介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームを運営しています。

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社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者
増田 高茂(ますだ たかしげ)

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。